はじめに

工画堂スタジオが2005年12月に発売した軍事学園ADV 「状況開始っ!」のゲーム中に、多脚戦闘車両という兵器が登場します。 最初はモビルスーツに代表される2足または4足の歩行兵器だと思ってたのですが、 ゲームをプレイしてみるとそれとは異なるものでした。 リアル性を持たせてあるとデザインされた村田氏が述べておられるようで、 ではどれくらいリアルなんだろうと、 「ミノフスキー粒子があろうと、ニュータイプがいようと、二足歩行兵器なんか役に立たない」と思う私が、 浅い知識を動員して考えてみることにしました。 (このゲームで、こんなこと考える人居るんでしょうか・・・)

多脚戦闘車両とは

機甲科科生諸君、おはよう。私は、三年次の月山香耶だ。 本日は諸君に、多脚戦闘車両の講義を行うこととなった。 予科練科生である私がこのような講義を行うのは異例のことではあるが、 多脚戦闘車両は制式化されてから間が経っておらず、本科でも教導体制が整っていない。 そのため予科練で搭乗経験を持つ私が、その役目を受けることになったわけだ。よろしく。
多脚戦闘車両は現在世界でも我が国防陸軍のみが所有する対戦車兵器である。 戦車保有数の条約の関係上、装甲車という扱いだ。 合衆国でもHigh Mobility Armoured Car(高機動装甲車)などいくつかの呼称があるようだ。
多脚戦闘車両はまだ実戦経験が無いが、制式化以降演習で最新の主力戦車にも一度も敗北していない。 その圧倒的な対戦車能力は各国の関係者を驚愕に陥れ、 すでに合衆国をはじめとする幾つかの国が研究・開発に着手したことは想像に難くない。 よってこれからの話は多脚戦闘車両搭乗を志す科生はもちろんのこと、 将来類似兵器に遭遇する可能性のある戦車搭乗科生も頭に入れておくべき事項のはずだ。
これが多脚戦闘車両の概略図だ。 急だったため、あまり良い資料が手に入らなかった。我慢して欲しい。 当鎚浦予科練生ならば、ハンガーに来てもらえれば見学は可能だ。気軽に声をかけてくれ。
多脚戦闘車両概略図
青い部分が動脚で、本車両を最も特徴付けるものである。 それぞれに装軌輪(*)が装備されており、独立に制御可能だ。 また各動脚は赤い矢印のように上下と左右に独立に向きを変えることが可能だ。
(*) キャタピラのこと
緑の部分が車両本体。戦車と最も大きく異なるのが、主砲が本体に固定され回転しないということだ。 そのため砲撃のためには常に敵と正対する必要がある。 現代の戦車は強力な装甲を前面に集中配備し敵を正面に捕らえることが防御上きわめて重要だということは、 諸君ら機甲科生ならば理解していると思う。 多脚戦闘車両はその考えを徹底化し動脚による高い機動性を与える反面、 相対的に価値の下がる回転砲台を撤廃し軽量化を図ったものである。
国防陸軍の一〇式多脚戦闘車両の基本性能はこのようになる。
  • 重量29.4t。
  • 出力1000ps。ガスタービンエンジン。
  • 主砲は80口径88mm滑腔砲。
  • 最高速度132km/h、不整地でも100km/h以上の高速走行。加速も戦車を凌駕する。
  • 旋回中に移動や走行中に向きを変えずに進路変更など、高度な機動が可能。
  • 操縦者は小柄なことが求められる。おそらく一人乗り。
  • 対戦車兵器として、圧倒的な能力を誇る。

車体構成

軽量化

ただでさえ各動脚に2機の回転アクチュエータが装備され重くなっているにも関わらず、 最新の九〇式主力戦車50tに対し30tを切るその重量は、 多脚戦闘車両がいかに徹底した軽量化を図っているかを伺えるものと言えよう。

戦車砲

現在まで主力戦車は射程距離を伸ばし敵車両の強固な装甲を撃ち抜くため、 主砲の口径は拡大の一歩を歩んできた。 しかし多脚戦闘車両の主砲は、それらに比べると88mmと小さい。 うん? どうも諸君らはそんな小さな主砲が使い物になるか、とでも言いたそうだな。 確かに小さいが回転砲台が無いため砲身は長く、着弾すれば最新鋭の主力戦車の主砲と比べて遜色ない力を発揮する。
しかしながら射程距離が短いのは認めざるを得ない。 敵の砲撃を潜り抜けつつ、己の射程範囲に敵を収めなくてはならない、ということだ。 よって多脚戦闘車両操縦者に最も必要な技術は、高機動性を生かした回避・接近・正対の操縦である。 逆にいえばそれ以外は高度な電子制御が補佐してくれるので、操縦者は3つに専念することができる。 なおトップクラスの操縦者は、1km先から砲撃されても回避可能だという。 電子制御の補佐があるとはいえ、操縦者が高い反射神経を持っていることには間違いない。

コクピット

戦車が3人もしくは4人乗りに対し、多脚戦闘車両は1人乗りである。 そのため、姿勢制御にとどまらず射撃や回避行動など相当な部分を電子制御を用いて操縦者を補佐している。 また小型軽量化のため、操縦席は非常に小型だ。 そのため、ここ鎚浦予科練の多脚戦闘車両選抜課程には身体の制限が設けられている。 予科練生が将来体格が大きくなることを考慮してある程度余裕を持った制限になっているが、 私も常々操縦席の狭さに圧迫感を感じている。 少なくとも機甲科二種、郷教官に指導を受けている科生は考えを改める必要があるだろう。 うん? そこ、何か言いたそうだな? なんだ? ・・・慌てているのが気になるが、まぁいい。

モーター

駆動力を生み出すのは本体に内蔵されたガスタービンエンジンであるが、 4機独立に方向を変える動脚は、それぞれ前後方向/速度/トルクなど装軌輪を細かく制御している。 その制御は電子回路が行ってくれるが、エンジンの駆動力をそのまま機械的に伝達する方法では、実現が困難だ。 そのためエンジンのパワーはいったん電気エネルギーに変換され動脚に供給、 装軌輪に内蔵されたインホイールモーターで再び駆動力に変えるという仕組みを採っている。
(*) 車で言えばタイヤの内側、ホイールといわれるところに仕込まれるモーター。一般の車なら、ここにはブレーキがあります。

直進機動性

速度

不整地での戦車の速度が70km/h位に対し、多脚戦闘車両は100km/h以上とかなり速い。 その割にはパワーウェイトレシオが戦車とあまり違わないことに、諸君らは気づいていることだろう。
これには動脚が大きく関わっている。 高速域では地面の凹凸によって生まれる車体の揺れがエネルギーを大きくロスする元となっているため、 多脚戦闘車両では車両本体が跳ねないように動脚で衝撃を吸収することを積極的に行っている。 実際一〇式に搭乗すると眞幹線並に揺れないことに気づくことだろう。 もっともエンジンや主砲はかなりうるさいがな。
高速移動時には地面の出っ張りへの乗り上げに対応できるように、 車体は幾分地面から離れるようになっている。

高速走行時の多脚戦闘車両

しかし一〇式では動脚を下に下げると爪先立ちのようになってしまい、 装軌輪が地面にめり込み抵抗が増加してしまうという問題がある。 これは砂漠や泥濘地では特に深刻だ。 地面に接触する履帯の面積を常に最大にするように開発部にも要請しているが、 残念ながら最新型の一五式でも改良されていないようだ。

多脚戦闘車両の履帯改善

ちなみに昔モータースポーツのF1では高度に電子制御されたアクティブサスペンションが登場し、 その効果をまざまざと見せつけた時代がありました。知っておられる方は、それを想像してもらうと分かりやすいと思います。 F1の場合には車体振動によるパワーロスよりも、カーブを高速にまわることの意味合いが大きかったですが。

加速・制動

諸君らは先日の機甲科実機演習で一〇式を見たものと思う。 直進加速性能について、私は初めて見たときに大変脅かされたが、諸君らはどう思っただろうか。 パワーウェイトレシオが戦車とあまり違わないにもかかわらずあのような加速が可能なのは、 本体に搭載されたバッテリーを用い、インホイールモーターに対してバッテリーとエンジンの両方から電力を供給するからだ。 ハイブリッド自動車を思い出してもらえば、理解は容易だろう。 ただしこのような急加速はモーターに多大な負荷をかけるため、 連続使用すると焼き切れる可能性に注意しなければならない。
当然制動時には回生ブレーキを活用して、次の加速の電力をバッテリーに蓄えている。 このような機構を支えているのが、眞州の軽量高性能バッテリー技術なのだ。

横走り

何度も言うようだが、多脚戦闘車両は敵車両に対して正対することが極めて重要である。 しかしそれに固執するあまり、動きが単調になれば敵のいい標的だ。 当然多脚戦闘車両は、敵に正対を維持しながらさまざまな方向に移動する方法を有している。 その方法は説明するまでもないだろう。動脚の方向を変えるだけだ。 ただ単に動脚の方法を変えてしまえば主砲の向きが変わってしまうが、 その制御は電子回路が自動で行ってくれるので操縦者は特に意識する必要はない。
なんだ、質問か? 動脚が変えうる方向の範囲か・・・ 実は現在鎚浦予科錬では多脚戦闘車両に搭乗するのは私一人のため、 私も起動中の外観は良くわからないのだ・・・整備科の科生にでも聞いてみるといい。すまないな。

多脚戦闘車両の動脚稼動範囲

旋回機動性

普通の旋回

戦車は左右の装軌輪を異なる速度に設定するにより曲がることができる・・・ 諸君ら機甲科生には説明するまでもないな。 多脚戦闘車両でも同様にして旋回は可能だが、 この図のように動脚の方向を向けることによって、より小さい旋回半径で動作が可能だ。 この時左右の装軌輪の速度は自動的に制御されるが、操縦者が変更することも可能だ。

多脚戦闘車両通常右旋回

昔ホンダが発売した4WSの自動車と同じですね。 これも外側と内側でキャタピラの速度を調節すれば、さらにスムーズになるはず。

信地旋回旋回・超信地旋回

片側のキャタピラを止めて反対側のキャタピラを動かすのが信地旋回、 左右のキャタピラを反対に動かすのが超信地旋回・・・これも説明は不要だったな。 この旋回も多脚戦闘車両の特性を活かしたすばやい行動が可能だ。

多脚戦闘車両超信地旋回

多脚戦闘車両では敵の予測を乱したり回避から攻撃に転ずる目的で、 高速で直進中に超信地旋回を行う操縦が存在する。 ひとつ注意しなければならないのは、先のような動脚配置でこの操縦を行うと車体が横転する可能性があることだ。 こうなると狭い操縦席の計器類に体をぶつけ、非常に痛い思いを・・・ なに、経験があるのかだと? そ、そ、それは・・・秘密だ。

多脚戦闘車両超信地旋回2

最新型の一五式では砲身を胴体下面に移動させ低重心化を図っているが、 それでも問題は完全には解決してないという。
横転を避けるためには、倒れそうな方向の動脚を支えにするのが現在のところ一番効果的だ。 旋回速度が鈍るが、背に腹は代えられん。 この場合支えにした動脚には大きな割合の車重がかかることになる。 過去には被弾して軽微な損傷を受けていた動脚が、負荷に耐えられず折れたという事例も報告されている。

多脚戦闘車両超信地旋回3

また他の動脚へかかる荷重が減少、履帯が地面を空回りし旋回性能がさらに悪化する問題もある。 これを克服するためには支えにしている動脚を下に押し下げ、 前方の動脚に荷重がかかるようにする必要がある。 図にすると、こんなかんじだな。

多脚戦闘車両超信地旋回4

貴様! 何がおかしい!? 生まれたての子馬が立ち上がる時みたいだと? 馬鹿者が! ・・・しかし本科には後脚の一本を持ち上げて「犬の小便」だとか、 後脚両足を上方に突き上げる「金のしゃちほこ」なる操縦を得意とするものがいると聞く。 主に一般者の見学時に披露するものらしいが・・・ はぁ、私はそんな操縦、覚える気はないぞ。
(*)旅館で仲居さんなどがやる芸のひとつ。顔を床につけ、体をえびぞりにして脚を高く持ち上げる。 その姿が金のしゃちほこに似ている。

横G

なんだ、質問か? そんな急な超信地旋回をしたら操縦者に強いGがかかるのでは、ということか。 たしかにレーシングカーなどがスリップせずにこのレベルの旋回を行い走り抜ければ、 強烈なGを受け、気を失いかねないだろうな。 しかしその加速が生み出せるのは、自重の何倍もの力で路面に押さえつけ(*)タイヤが滑らないようにしているためだ。 一般車や装甲車にはそのような力は期待できない。 いいか、操縦者がGとして感じるのは動脚の推進力で生み出す加速度だ。 履帯が地面を滑ることなく蹴らなくては、そもそもGなど感じないのだ。 貴様、ニ年次科生だな。すでに座学で習っているはずだが?
ましてや不整地だ。どれだけ履帯が地面を捉えるように制御したとしても、1G程度の加速を出すのがせいぜいではないか? その程度のGでは体は振られるかも知れんが、意識を失うほどではない。 それ以上の力で履帯を動かそうとすれば、履帯は地面から滑り出すだろう。
(*) いわゆるダウンフォースのことです。 他にも路面にチリが少なく鑢のようにざらざらしていること、 タイヤが粘着性を持っていることも滑らない大きな要因です。
それ以前に超信地旋回を開始した瞬間、履体は地面上を滑り出している。 さらに加速は得られなくなり、体感するGも小さくなってしまう。 そのような状態では、どのように動脚を制御しても十分に地面を蹴ることができず、車体の姿勢制御すら難しい。 Gなんかよりも、まず回転を止めることを心配しろ。

多脚戦闘車両超信地旋回5

射撃

次に射撃だが、実はあまり話すことはない。 機甲科の諸君は知っていると思うが、諸条件の影響を考慮しつつ2km、3km先の目標に命中させるのは大変難しい。 よって最新の戦車はおおむね電子制御で自動化されているのが実情だ。 ましてや一人乗りの多脚戦闘車両が走行中や超信地旋回中に目標に命中させることなど、人間業ではない。 戦車よりも高度に電子制御化されている。
例えば、先程の直進から超信地旋回、射撃という場合。 目標は予め操縦端末を通して指定しておく。 旋回直前に射撃モードに移行、超信地旋回開始、上下角は自動で調整される。 やがて目標が正面に近づいてくるので、通り過ぎる前にトリガーを引く。 実はトリガーを引くタイミングなど、どうでもいいのだ。 たとえ引いても火器管制装置が命中しないと判断している間は発射されない。 トリガーを引きっぱなしにしておけば、やがて目標が着弾予想地点に入り、自動的に発射される。
冗談でもなく、目を閉じていても当てられるわけだ。 操縦者に求められるのは、射撃前と後の効果的な車両の操縦だ。 射撃後は速やかに車体を安定させ、その場を離脱しないと反撃を受ける危険性が高まる。 あとは・・・命中しなかった場合の着弾予想点の微調整ぐらいだろう。

おわりに

次に多脚戦闘車両の効果的な運用について・・・
(午前終了のラッパ)
うん、もうそんな時間か。 おい貴様ら、まだ終わったとは言ってないぞ。戻れ、戻らないか。走るな、馬鹿者! まったく・・・何を考えているのか・・・ 青江、おまえ先程まで豪快に居眠りしていたではないか。 食堂に行こうだと? おまえというやつは〜〜〜〜!
以上、ゲームを通して私なりに思い描いた多脚戦闘車両を記してみました。 戦車に関してはほとんど無学なのでとんちんかんな事書いているかもしれません。 内容が良く分からなかった方、ごめんなさい。 へっぽこな絵に不快感を持った方、もっとごめんなさい。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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